世界と理由と、彼らの存在に――

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やけに自慢げな態度に、こちらも過度な期待を抱く姿を見せても、コウタロウは俺の反応を待っている。 「早く開けろよ」 箱にかかった真っ赤なリボンを解いていくと同時に、甘い香りが立ち込める。 この重さに大きさ、形からもしかして……と思った時、現れたのは見覚えのあるホールケーキ。 「何だこれ、すっげーな」 しかし、ケーキの上面にはデコレートペンで人の顔が描いてある。 きっとこれは――俺の似顔絵。 「コウタロウが描いたの?」 「んにゃ、トモミ」 「……あーっ、そっか。あいつ見かけによらず絵上手いんだったよなぁ」 学力は学年最下位も過言ではないくらいなのに、その分人並み外れた運動神経と美術の才能を持ち合わせているトモミ。 思い返せば、中学の頃もそっち系の賞で何度も表彰台に登っていた。 「でも、ホント俺そっくりじゃん。食べるの勿体ないな」 「だろー、三人で絶対ビックリするよねって話してたんだよね」 「三人?」 「うん、デコレートはトモミが。土台のケーキは佐藤さんが。そんで、ハッピーバースデーの歌を歌ってあげるのが俺」 言いながら歌い始めるコウタロウに、お前はそれだけかい、とツッコミを入れる。 すると、ロウソクは俺が買ったんだって唇を尖らせた。 「ケーキ、佐藤が作ってくれたんだ」 「トモミが誕生日の時にホールケーキ貰ってただろ。あれが相当美味かったらしいから、佑馬にもって頼んでさ」 「そうなんだ」 あの時練習用だと試食させてもらった、完璧にデコレートされたケーキ。 ――美味しかったよな……。 「二人には後でちゃんとお礼言っとく。お前もありがとな」 「どういたしまして。んじゃー、俺も一口パクッと」 ついさっき食べるのが勿体ないと言ったばかりなのに、容赦なくデコレートにかぶり付こうとしたコウタロウの前に、素早く掌を広げる。 「うぇっマズッ」 その瞬間、手の甲に舌を這わせて苦々しい表情を浮かべたのは、俺が悪いのではない。 「待て待て、さすがにそれはないだろ」 「はー?いいじゃん、腹減った」 「駄目、これは俺一人だけで頂くんだから」
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