世界と理由と、彼らの存在に――

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放課後になると再び隣の教室を訪れたが、間に合わなかった。 既に二人の姿はなく、やむなくプールへと向かい、ひたすらコースを往復する。 ゴーグル越しに見える水中は光がなく、無数の泡だけが現れては消え、現れては消え。 雑念を消したいが故に、バシャバシャと激しくクロールで前に突き進む。 気にすることじゃないのに、トモミがおかしなことを言うから。 佐藤の気持ちは、佐藤本人にしか分からない。 当てずっぽうな言葉で、少しでも惑わされるような自分は不埒だ。 「お疲れ様でした」 "束縛"という単語に俺は何を感じたのか。 とにかくスッキリしないのは事実で、泳ぎ足りない無駄な力は足に込めて走り出す。 『今の可純は幸せそうじゃないよ』 気持ちを伝えて無理に諦めようとしているのに、何てこと言ってくれるんだ。 俺の前で笑ってくれたのは数えるくらいなのに、俺のいない所では笑ってたって? どうして。 全てが今更に過ぎない話なのに、後悔ばかりが浮かび上がる。 「……ふざけんな」 夕空には無数の星が煌めき、織姫と彦星が顔を合わせている頃だろうか。 「ホント、ふざけんな」 誰も悪くないし、モヤモヤをぶつける相手もいない。 行き場のないどうしようもない思いを飲み込んで、唇を噛み締める。 ……母さんとホシさん待ってるだろうし、帰るか。 しかしその時。 通りがかった公園のベンチに座る人影に、俺は息を呑んだ。
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