世界と理由と、彼らの存在に――

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口の中が涙のしょっぱい味がする。 泣きながら縋り付いてキスをする佐藤の腕は、俺の首に回されていて、微かに震えていた。 「ごめ……な、さい」 「……どういうこと」 突如飛び込んできた生身の人間の熱に、呆然としながらも背中に手を回すと、彼女の腕にも力が入る。 苦しいくらい強く寄縋る佐藤。 「わ、私っ……私は……島津君がいい」 「……うん」 「……島津君じゃなきゃっ、や……やだっ」 俺は地面に尻餅をついたまま、佐藤の頭をポンポンと触って宥めようとするのに、彼女は反抗するように首を振る。 「私っ……島津君のことがっ……す、好き」 「佐藤」 「一年生の頃からっ……ずっと、ずっと……大好きだっ」 言葉を遮って激しく唇を重ねると、佐藤は抵抗せずに身を任せてきた。 俺は涙でベッタリ濡れた頬を、両手で包み込む。 「ちゃんとっ、説明して……」 「島……津、くっ……」 「俺、も……佐藤っ……好きだっ……」 唇を離すのがたまらなく嫌で、激情に駆られたまま、何度も、何度も、キスを重ねる。 もう、手放したくない。 諦めようとしていたのに、もう引けない。 ――引かない。 「佐藤が……好き、だっ……」 しかし、彼女の抱えていたものが、この世界の運命をも握る問題だとは。 落ち着いた後、佐藤は顔を真っ青にして全てを口にした。 「どうしよう、私……」
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