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帰り際、わざわざ送り届けるために外に出てきてくれた島津君は、私の隣をスローペースで歩く。
星降る夜の下は、虫の声が響き、夏を匂わせる乾いた風が揺れる。
「もう夏だな」
「……だね」
悠久な大自然や歴史が築き上げてきた環境。
そして、子々孫々に至るまで語り継がれてきた、伝統や格式。
痛手を負いながらも、今尚見直されている人権、平和、安全。
全てがこの世界の中での出来事なのに。
「私達は、誰が何のためにこの世界に生み出したんだろうね」
「溝田は知ってんのかな」
"心"を与えたのは神なのか、それとも世界を作った人物なのか。
「でも、俺達はちゃんと生きてる」
"感情"や"感覚"は自分によって生み出されるものであり、私達は機械でもオモチャでもない。
「あ、また険しい顔してんぞ」
島津君は私を見ると、不安も吹っ飛んでしまうような微笑みで空を見上げた。
「コウタロウとまではいかないけど、俺、すっげーガキだから、佐藤からすれば脳天気に見えるかもな。でも、こいつも同じことで悩んでんだって思ったら、少しは楽になるんじゃない?」
わざとふざける彼の姿に、私もコクリと頷く。
「なら、よかっ……」
――しかしその時。
恐怖に前触れなどなかった。
自然に満ち溢れた星空が、突如強い光に包まれ視界を遮った。
そして次の瞬間、世界が鳴動し、悲鳴を上げる。
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