置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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* 「これは一体……」 持ち上げるとガラガラとおかしな音のする本体に触れた神保原の父親は、二階の事務所から一階の自宅へと駆け下りる。 その慌ただしさが、俺の不安を煽った。 「溝田君、とりあえず一度『HEART』の中へ行ってきなさい」 「行って大丈夫なんですか」 「もしかしたら、中へ入れるのは最後になるかもしれない。プレイヤーはあちらの世界へ行っても死に至ることはないのだから、思い残すことのないよう行って来ても構わない」 ――最後。 躊躇いなく切り出された事実は、あまりにも痛々しかった。 「どうする?」 「行きます、行って見てきます。だから、ちょっとだけ待ってて下さい」 傷のついた部品を体に装着し、準備に取り掛かる。 こちらを見つめる神保原は、不安げな瞳を揺らしていた。 「気を付けてね」 「俺は大丈夫だから」 くれぐれも無理のないようにと言いながら神保原の父親が電源を入れると、俺の意識はあちらの世界へと向かう。 しかしいつものようにベットの上で目を開けるより前に、爆音と振動が心と体を揺らした。 ただならぬ雰囲気。 『溝田様』 聞き取りずらい愛本の声と同時に、俺の目の前には色のない世界が広がる。 窓から差し込む光の中を駆け巡る、真っ赤な霹靂。 そして見下ろした街は血のような海に包まれていた。
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