置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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時刻は午後十時。 なのに判別のつかぬ白い空には星一つ見えず、俺はパジャマ姿のまま、サンダルで外へ飛び出した。 一階のリビングで恐怖に怯える両親とハナコは横目に、安全を願うのみ。 頭上を行き来する無数の稲妻は、家々を狙っては花火のような光を散らす。 そして得体の知れない液体となり、道路を赤く染めていった。 ――佐藤さん……! 行ったことのある彼女の家を目指して突っ走る。 俺がやったわけじゃないんだ。 どうか無事でいてくれ。 『溝田様っ!』 しかし初めて人間らしさのある愛本の声が聞こえた時、俺の目の前に真っ赤な光が飛び込んできて。 ――! 大きな衝撃と共に、体は吹っ飛んで地面に叩きつけられる。 痛い。 苦しい。 胸部からドクドクと溢れてくる血液は生臭かった。 でも、俺は死なない、死ねない。 どんなに傷付こうとも、『HEART』は本来自分の生きるべき場ではないから。 再び立ち上がると、無我夢中のまま前を目指す。 『溝田様』 「俺はっ、大丈夫」 それなのに、やがて見えてきた彼女の家の直前で、俺は信じられない光景に出くわしてしまった。 どうしてこんな所にいるんだ。 「佐藤さんっ!」 液体にまみれ、額からも血を流す彼女は、島津佑馬を庇うかの如く覆いかぶさっている。 何度も衝撃に打たれたように見える背中は、見るも無惨にえぐれていた。 「……っ!しっかりしろ!」 二人とも意識はなく、ピクリとも動かない。 ――おい、嘘だろ……。 「佐藤さんっ!……佐藤さんっ!」
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