置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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『HEART』を犠牲にしてしまった代わりのように、パタリと嫌がらせはなくなり、クラスのリア充とも少しだが言葉を交わすようになった。 現実世界に、変化が訪れようとしている。 「俺、溝田がやり返すような奴だと思ってなかったから、ビビった」 「……まぁ、俺だって、頭にくることはあるし」 「カッコ良かったぜー?」 リア充達が俺とキモトを相手にするような日がくるなんて……。 ――信じらんねぇな。 『HEART』が壊れて数日、食は細く、夜になれば眠れぬ日が続いた。 それでも神保原とキモトは俺の傍を離れなかったし、家族は俺の元気のなさを察している。 「圭吾、夕飯はあんたが好きなカレーだから、気が向いたら下に降りて来なさい」 あんなにウザかった母親から出る言葉に思えない。 あえて事情を聞いてこないのは、俺への気遣い? 時刻は午後十時。 真っ白な世界の中、赤い光が飛び交っていた、あの時間。 「……佐藤さん」 枕を抱き締めて顔を埋めたまま、俺は声を殺して涙する。 肩はガタガタ揺れ、人に見せられない情けない姿。 「……佐藤……さんっ」 自分のせいだと分かっているのに、やっぱりあのような別れ方はあんまりだった。 人を失うということがこんなにも辛いなんて、知らなかった。 恋しくて、恋しくて。 でも、逃げ出すことは許されない。 どんなに日を重ねようとも、俺の心が癒えることはなく、神保原の父親からも良い連絡は入らなかった。
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