置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

11/32

476人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
そうこうしているうちに期末テストが終わり、毎年楽しみにしている夏休みがやってきた。 今年の夏は特に暑く、無駄に晴れやかな日が続いている。 「圭吾、今年はパーッとどこか遠くにでも行こうぜ」 「あら、いいわね。私も一緒に出掛けたいわ」 「そうだな、どこか行くか」 ……なんて会話をして、早一週間。 俺はクーラーの効いた部屋の中で、ずっとベットに寝転がったまま。 学校へ行って嫌いな授業を受けている時の方が、まだ気が紛れていた。 他のゲームに夢中になることも、又、新しいゲームを買うこともなく、時間だけが過ぎてゆく。 『溝田様、時間が勿体ないですよ』 時折、いるはずのないの愛本の幻聴が、俺を苦しめた。 「圭吾、せっかくの夏休みなんだから、キモト君とどこかへ出かけたら?」 「いつか行くよ、いつか」 誘われれば外に出たいのだが、自ら何かをしようという気力は沸かない。 涙は枯れたはずなのに、何でもないふとした時にうるっとくる。 そう、こんな風に、空を見上げた時なんか。 ――あぁもう、駄目だな。 俺はいつまで『HEART』を待てばいいのだろう。 諦める努力をしていいのかも分からず、思いは全て後悔へと繋がった。 あの時『HEART』を持って来ていなかったら。 あの時『HEART』を守れていたら。 そしたら俺は――。 そんなある日、近くで大きな花火大会があるらしく、神保原から連絡があったのは当日の朝のことだった。 「午後六時にM町のCストア前に集合でいいわね」 「え、二人で行くのか?」 「えぇ、何か問題でも?」 キモトを誘おうとしなかった神保原は、一方的に時間だけを告げると、プッツリと通話を切ってしまった。 こりゃあまた、いきなりな話だな。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加