置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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薄暗い夕闇の空にはまだ花火は上がらず、地上の喧騒が聞こえる。 「キモト君って溝田君と似て、インドア派でしょう。だから口では外に出ようと言っていても、きっとまだどこへも出かけていないと思ったのよ」 「よく分かったな。確かに俺は夏休みに入って、一歩も外から出てなかった」 「ほら、当たり」 クスリと笑った神保原は、フェンスに背を預けるとチラリとこちらを見た。 「それに、キモト君のいる所では『HEART』の詳しい話はできないでしょう?」 「その後も何も変わらない感じ……だよな、何も連絡ないし」 「お父さん、帰ってきたら溝田君の『HEART』に付きっきりの状態よ。でも、私にも何も言ってこない」 神保原との食事中にも険しい顔をしたまま、いつも何かを考えているらしい。 サラリと話を聞くだけでも、きっと大きな負担になっているに違いなかった。 「……俺、いつまで待てばいいんだろう」 「待つ時間こそ長いものはないものね」 「たまに、いっそもう諦めろって言われた方が楽だって思う時がある」 「そう」 神保原は自分の意見は言わずに、俺の言葉を聞いて頷くばかり。 普段思っていることをズバズバいう彼女だからこそ、違和感を覚える。 「神保原はコウタロウとは上手くいってんのか」 「えぇ、まぁ。こっちの世界では、可純ちゃんもとっても元気よ。もし溝田君が会いたいならば、いつでも『HEART』貸すわよ」 俺にゲームを貸すメリットなんてないのに、神保原は一日と言わず好きなだけ、足りないならば家に持って帰ってもいいと言ってくれる。 「それに溝田君があんなことになってしまってから、私、あまり『HEART』の世界に行ってないのよ」 「そうなのか?」 「溝田君、取り返しがつかない状況になってから、人の気持ちを考えられてなかったって後悔していたじゃない。私、あの後自分で『HEART』とコウタロウ君のこと、色々と考えてみたの」
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