置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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その日を境に、神保原からはちょくちょく連絡が来るようになって、行く場所がなければ図書館で一緒に宿題を行ったりもした。 図書館なんて興味のない場所、来たのは創設時にチラリと立ち寄って以来。 お互いの家に行くことはなかったとはいえ、こんなにも外へ出る夏休みは初めてだった。 オシャレなカフェに、家族連れの多い公園。 ただ思い付いたように、夕暮れの土手の上を散歩してみたり。 お互い人混みが苦手なのに、早朝から遊園地へ出掛けたり、デパートでショッピングなんかもした。 リア充ではないはずの俺が、女の子とデートみたいなことしてる。 ――ま、神保原だしいっか。 いつ俺が涙を流そうとも、彼女は動じずにその度にハンカチを差し出してくれた。 女に慰められるって、どんだけヘタレなんだ。 心ではツッコんでいるのに、体が伴わないことはしょっちゅう。 盆明けには、キモトと三人で海へ行った。 スクール水着で現れた神保原に対する反応には、俺もキモトもどうしようと困ったが、三人でギャーギャーはしゃいだ末、俺は眼鏡をかけたまま砂浜に寝てしまい……とんでもない日焼けをして帰宅した。 「圭吾、何その顔」 俺を見た母親は爆笑し、つられて自分も笑ってしまったんだっけ。 「うるせぇな!」 秀才の神保原のおかげで宿題は着実に終わらせ、二学期に入るとすぐに体育祭の準備が始まった。 運動音痴な俺は他人に迷惑をかけてしまわないかとヒヤヒヤしたが、クラスのリア充は気にするなと笑ってくれた。 以前に比べて、学校が楽しい。 信頼できる友達もいるし、クラスも居心地が良い。 体育祭が終わると、息をつく間もなく文化祭。 文化祭が終わる頃には、季節は秋の折り返し地点を通り過ぎていて、冬も近い時期になってい た。 こんな風に泣きながらも笑顔で過ごしていたら、あっという間なのだろうか。 このまま佐藤さんのことも、忘れることができるのだろうか。 「さて、帰りましょうか」 「二人とも、今日はゲーセン寄ってこうぜ」 「ゲームセンターはガヤガヤしていて煩いから苦手よ」 「圭吾とは遊園地行ったくせに、ウミ子ちゃんは俺には冷てぇよな」 季節の変化と共に、キモトが神保原のことを"ウミ子"と呼ぶ程、俺達の絆は深まっていった。
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