置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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* 数日後のクリスマスはキモトの家でパーティーをして過ごす予定。 天気予報によれば、今年はホワイトクリスマスになるかもしれないらしい。 ちょっと街へ出れば、どこかしこもイルミネーションだらけで、ネオン街を歩いているようだった。 『じゃあ、十時にCストア前で』 その日俺は、クリスマスにキモトの家にお世話になるからと、神保原と共にプレゼントを買いに行こうという話になっていた。 二人で出掛けるのもすっかり慣れたものだ。 緊張はしない。 いつも十分前には到着している神保原よりも先にと、今日は早めに家を出る。 ――それにしても、もうクリスマスか……。 吐く息は白く、空は雪の降り出しそうな灰色。 俺はマフラーに顔を埋めると、早足にCストアへと急ぐ。 「溝田君、久しぶりだね」 「……え」 しかし、まだ誰もいないと思っていたはずのCストア前には、神保原ではなく、彼女の父親が立っていた。 『HEART』を託して以来見ていなかった顔は懐かしい。 白髪交じりの短髪に、剃り忘れたような顎髭。 この寒い中、ヨレヨレのシャツ一枚に、足元はサンダルのまま。 「お久しぶりです」 「本当は今日ウミ子と出掛ける予定があったんだろう?でも、君に話しておきたいことがあるから、今日は僕に時間をくれないかな」 「……はい」 神保原は既に一人街へ出たらしく、俺は父親に連れられて久しぶりに彼女の自宅へと足を踏み入れた。 「君と言葉を交わすのは、本当に久しぶりだね。さぁ、どうぞ上がって」 「お邪魔します」 懐かしい和室、畳の匂い。 そして部屋の隅には、見覚えのある傷のついた『HEART』が分解されまま横たわっていた。
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