置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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受験生となる三年生では、猿川トモミとはクラスが離れてしまったが、島津や佐藤と共に一年楽しくやりきった。 卒業式の日、島津に協力してもらって猿川にやんわりと気持ちを伝えてもらったものの、結果はNG。 まぁ、そうだろうな。 ほとんど喋ったことのない僕なんて、ましてや筋肉ムキムキなドSがタイプの彼女の理想には、程遠いし。 真逆だし。 でも、高校三年間を充実させることが出来たのは、紛れもなく彼等のおかげだった。 ありがとう、楽しかった。 本当に感謝しているよ。 大学は佐藤と同じ所に進み、四回生では僕達は同じゼミを取っていた。 その間も、他の大学へと進学した島津とは上手くやっているみたいで、僕は彼らを見て安心していた。 「うん、トモミも元気みたいだよ。大変みたいだけれど、子供大好きだから毎日楽しいって言ってた」 そう、彼女は短大に進学して、僕らが卒業研究に追われる頃には、保育士としてバリバリ働いていたんだ。 やがて、僕は薬剤師として病院に勤務。 佐藤は薬品会社に、島津は公務員として地元の役場に。 そして一番意外だったのは水内で、彼はエリートサラリーマンとして一流企業に務めていた。 就職してからはただ真面目に働くだけで、確かに評価はされたが、浮ついた話の一つもない。 相変わらず僕は人と関わるのが、あまり上手な方ではなかった。 そんな時、体を壊して病院を訪れた猿川トモミと顔を合わせたのが、二度目の運命の出会いだったんだ。 思わず引き留めた僕を見て、猿川は一瞬訝しげな表情したが、すぐに懐かしげな笑顔を見せる。 「うっそー、あの神保原君!?やだ、何年ぶりよ!」 どうやら告白に近いことをした僕のこと、奇跡的に忘れてはいなかったらしい。
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