置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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式の際、島津達は遠慮することなく自分達を頼ってくれ、と泣きながら言ってくれ、一緒にトモミを見送った。 ウミ子を立派な大人にすることが僕の使命だと思ったし、投げすわけにはいかない。 大丈夫、できる。 でも、自分が思っているよりもトモミの存在は大きくて、僕は―― 彼女の"死"と向き合うことができなかった。 母親のことを一切ウミ子に語ることなく、一方ウミ子の方も子供ながらに触れてはいけない空気を感じ取っていたのか。 部屋にはたくさんの家族写真を飾っているのに、母親について尋ねてくることは一切なかった。 きっと、辛かったと思う。 僕と同じように……いや、僕以上に大変だったと思う。 その頃僕は、高校の時親友だった、頭は悪いがゲームに関する知識だけは誰にも負けないアダチに声をかけられ、一緒に小学生向けのシュミレーションゲーム作りをしていた。 給料は安いが、時間の融通が利いて、何より気を使わなくて良い。 頭だけは無駄にいいだけあって、初めてのゲーム作りはとても簡単だった。 売れ行きもまぁまぁ良く、会社が赤字になることもない。 そのうち本格的な大人でも楽しめるゲームを作りを目指し、僕はアダチと共に会社を引っ張る存在となっていった。 そしてウミ子が小学校を卒業したのを見届けると、とあるゲーム作りに取り掛かった。 これは、僕のためだけにある、最強のリアルゲーム。 一番輝かしかったトモミを傍で見ることのできる、幸せなゲーム。 完成するのには丸三年かかりっきりだったが、これまで売り上げに貢献してきた僕に、アダチが口を出すことはなかった。 完成したら元の仕事に戻る、という約束を守ればいいとアダチは言ってくれた。 でも僕は…… 「アダチ、話があるんだけれど」 「ん、どうした?」 僕は、僕に対して大きな夢を抱くトモミの姿を、忘れてはいなかった。 『あたしと結婚する男なんだから、世の中に名を知らせるような男になるのよ』 あの時生真面目に指切りをした僕は、世に出回っていないこのハイスペックなゲームを、買えないくらい高い値を出して売り出したのだった。 有名になりたかったわけじゃない。 僕はただ、トモミとの約束を果たしたかっただけなんだ。
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