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しかし、少なからずとも売れ行き0とはいくわけにはならず。
数えるくらいだが売れる『HEART』を、僕はとてつもなく不安な気持ちで見送る。
信じられないゲームがある、とメディアは僕を取り上げた。
噂は瞬く間に世間に広がり、うちのゲーム会社は頂点へと上り詰める勢い。
だが、僕が仕事をしている間に、高校生になったウミ子は『HEART』を勝手に使うようになっていた。
こんなにリアルな、人間に近い、ロボットでも機械でもない人でもない彼らに接触することは、本当に恐ろしいことである。
生身の人間が傷付きかねないからだ。
僕は、僕のために『HEART』を作った。
虐められそうになっていた所をヒーロー達に助けてもらい、落ち着いてきた冬の日。
一番輝かしい高校生活の始まり、一年生の終わりに、転校生として飛び込んでトモミと愛を育みたかった。
ただ、それだけだったんだ。
『HEART』内部に装着した赤いボタンは、僕の逃げ道。
もし耐え切れなくなったら使っちゃおー、なんて馬鹿なノリで作った最低最悪なボタン。
『HEART』を作ってからというもの、島津達とは全く連絡をとっていなかった。
僕と同じく中年になった彼らが、ゲームの情報を手に入れているのかは定かではない。
僕が主観的に見て性格を作り上げ、回答のパターンをも作り上げたのだが、やはり島津は島津であり、佐藤は佐藤、水内は水内だった。
なのに、トモミだけはそうはいかなかった。
やはりどんなにトモミらしい人を作り上げても、彼女は本物のトモミではなかった。
『HEART』を作り上げたのに、僕の胸には複雑な想いだけが残る。
トモミ、僕は間違っていたのかな。
君との約束を果たしたよ。
でも君は喜んでくれている?
何故だろう……僕には、君が喜んでいるようには思えないんだ。
ただ一つ言えるのは、これが真実だ。
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