置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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俺の知らない所で、こいつは更なる虐めっ子達に卒業間際まで酷いことをされていたなんて、初耳だ。 「きつかった。でも、最後の最後までやり返せなかった」 「……お前も大変だったんだな」 「溝田、変わったよな。俺が虐めてた頃はビクビクしてたのに、今じゃ普通に話してやんの」 虐めっ子は俺を見ると、ぷっと吹き出して肩を揺らす。 「俺、一年の頃からオドオドしてる溝田のこと見てると、イライラしてた」 「だろうな」 「……でも、悪かったな。俺のしたことは、最低なことだと分かってる」 ――まさかここにきて謝罪……!? 誰が許すか。 あんな暴言吐いて、女にも暴力振っておいて、『HEART』をあんな状況に追い込んだのに。 「許して、と言える立場じゃないのは分かってるけど」 ここで握手、全て水に流して今から君も友達さ!やがて二人は心許し合える親友に……。 馬っ鹿じゃねーの。 こんな状況、よく青春ドラマのラストシーンで見かける。 見る度に阿保臭いと思わずにはいられない。 クソ野郎、誰が許すか。 「都合良いな」 「うん、それも分かってる。溝田もそうだと思うけど、俺も大学デビューしようと思ってる」 「……で」 「お互い、楽しい四年間になるといいな。俺も、お前も」 ――ホント、都合良い奴。 「そうだな」 「まぁ、一応知り合いだし、何かあったら声かけてや」 「さぁね」 「ハハ」 以後虐めっ子と付き合っていこうとは思わなかったし、当時の出来事を許そうとも思わなかった。 でも俺は、この時初めて知ったんだ、こいつの名前はカトウ。 そして、辛い思いをしていたのは、もう過去の話。 本当にどうでも良くなった時にでも、声をかけるのも有りなのかもしれない。
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