置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

31/32

476人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
「……学校、共学だったよな」 「えぇ、そうだけれど」 「お前、モテるだろ」 ポロリと出た言葉に、神保原は眉間に皺を寄せてそっぽを向く。 俺を置いて街の中を歩き出した彼女の後ろを、高校の時と変わらない距離で追いかける。 「随分とチャラチャラしたことを言うようになったのね。何だか見損なったわ」 「違う、そんなんじゃねぇ。高校の時とのギャップが大き過ぎたんだよ」 とにかく、地味で目立たなかったあの頃の神保原ウミ子には見えなかった。 きっと誰が見てもそう言うと思うし、すれ違うだけじゃ気付かない。 「嫌なのよ、軽い人達。飲み会に参加しては、そのままホテル。その後付き合ってくれないとか、遊ばれたとか、ホント馬鹿みたい」 「おぉ」 「何よその反応。溝田君はそう思わない?」 「うん、御もっともです」 根本的中身に変化は感じられない。 神保原は今日もピンと背筋を伸ばし、誰に恐れることもなく我が道を行く。 「簡単に付き合うなんて、有り得ない。コウタロウ君以上に好きになった人じゃないと無理」 妥協はできない、という神保原の言葉と、久しぶりに耳にした名前に、俺は薄く唇を開いた。 「……コウタロウ」 「もうずっと会っていないけれど、彼のことは本当に好きだったわ」 「うん、知ってる」 彼女との間を引き裂いてまで手に入れたかった、神保原の初めての彼氏。 「あ、キモト君は元気してる?」 「最近彼女ができたみたいで、すっげーデレデレしてるよ。その子、高校の頃の神保原にそっくりなんだ」 すると、キモト君には告白をされたけれど振ってしまったからね、と軽い口調で語った神保原に、俺は反射的に大声を上げてしまった。 「マジかよっ!」 ――あいつ、告白してたのかっ……! 「あら、溝田君知らなかったのね」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加