置き去りの世界を、ひたすらに抱き締めた

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大学生活が流れるのは、高校の時よりもずっと早かった。 二回生、三回生になると時間割も大分楽になり、自由な時間が増える。 履修の組み方さえ工夫すれば、土日以外に休日を設けることだって可能だった。 勉強に、友人関係に、同好会に、新しく始めたアルバイト。 溜まったお金で免許を取ったり、好きな物を買って、贅沢に過ごす。 ――大学生って良い身分だよな。 親のお金で学校へ通い、好きなことを好きなだけできる。 生まれて初めて買った母の日のカーネーションには、成長したと涙されたんだっけな。 周りにとっては普通のことでも、きっと俺が今までクズ過ぎたから。 学校ではキモトとつるみ、極たまににカトウと関わることもあって、カトウはカトウで充実した生活を送っているように見えた。 長期休暇に入ると、必ず顔を合わせた神保原の美しさは増すばかり。 女って、すげぇな。 大人の女性となった神保原を取り巻く男は、さぞ多いことだろう。 会う度に感心すれば、怖い顔を向けられた。 とにかく俺にとっての大学生活は"充実"の一言であり、他では表せないと言っても過言ではない日々で。 そんな中、いよいよ四回生となる前の春休み。 バイト先のガソリンスタンドから帰ってくると、母親から荷物が届いていると言われた。 でもまぁいいか、と呑気に夕食と入浴を済ませ自室の扉を開けた途端―― 「……え?」 見覚えのある巨大な段ボール箱。 ――嘘、でしょ……? 待っていると言ったのに、彼らを思い出すのは神保原と会った時くらいで、すっかり現実に浸りきっていた。 ――でもこの大きさって、他には思い当たらないし。 俺の心臓はドクン、と大きな音を立て始める。 しかし、恐る恐る近付いて、上面のガムテープを剥がしてゆくと…… 「ホントに?」 心の準備なんて、全く出来ていなかった。 そこには、今になってみれば時代を感じさせる大きな機械が入っていて、俺は触れるのさえ戸惑ってしまって、その場に立ち尽くす。 そしてその様子を見かねたかのような着信相手は、神保原の自宅からだった。
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