俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

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そのまま一緒に下駄箱へ向かう島津君は、トモミと同じように私にも話を振ってきてくれる。 凄く、凄く気を使われているんだと思う。 なのに私は、こんな風に隣を歩くだけで、時折揃う足音にさえ敏感に反応してしまう。 暑い。 熱い。 胸が、いっぱいになる……。 「佐藤は?部活もしてないし、午後からはグダグダすんの?」 「うん、まぁそうなるかな」 曖昧に応える私に、彼は頭の後ろで腕を組んで、羨ましいなと空を仰ぐ。 「もしあれなら、水泳部いつでも部員募集してるから、さ」 「出た、自分がいなくなるギリギリまで勧誘続けるつもり?粘り強っ」 「あくまで勧誘なんだから、別にいいだろ」 彼がこの街からいなくなってしまった秋には、私の見る景色からも光や色が失われるのだろう。 受け入れられるだろうか。 ――受け入れたく……ない、な。 きっとこんな何気ない一瞬でさえ、忘れられない記憶に繋がるはず。 目に焼き付けておこうかと視線を向けると目が合って、やっぱり島津君は爽やかに笑った。 「いいじゃんかなぁ、佐藤」 「……うん」 「ほら、トモミ。佐藤は勧誘ウザくないって」 島津君が幸せになるための転校なのに、心のどこかでやめちゃえばいいのにって思ってしまう。 ――私、性格悪いな……。 しかしその時、後方から走るような足音が近付いてきたと思った瞬間―― 「えっ」 背後から受ける衝撃に私が立ち止まると、後ろからギュッと抱き締めてくる相手の腕にも力が入った。 「……溝田君?」 「そうだよ」 「どうしたの」 朝から何事だろう。 驚きのあまりビクつきながら顔を向けると、溝田君は私のことをじっと見下ろしている。 「可純ちゃん」
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