俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

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下の名前なんて、今まで一度も呼ばれたことない。 前触れのない彼の行動に、私は目を白黒させる。 「ちょっと溝田君、いくら可純が好きだからって、朝からベタベタするのやめてくれる?」 「トモミさん」 「ほら溝田、周りもお前のこと見てんぞ」 「島津」 私にだけではない、溝田君は二人の名前を大事そうに呟くと、抱き付いたままうんうんと何度も首を縦に振る。 まるで、久々に再会したかのような、感動的シチュエーション……? でも昨日、いつも通り学校で会ったし、何も変わったことはないのに様子がおかしい。 「会いたかった」 「……そ、そうなんだ」 「うん、可純ちゃんにも、島津にもトモミさんにも、ずっと会いたかったんだ」 ――と、言われましても。 私だけでなく、周りの二人も驚きのあまり口をあんぐり開けたまま。 「溝田君、何かあったの?」 「うん、ちょっとね。まぁ、こっちの話」 ようやく私から離れた溝田君は、次は島津君の隣に並ぶと、彼の背中辺りをそろそろと撫でる。 さっきの私に対しての触れ方と似ていて、何かを確認するような手つきだった。 「何だよ溝田、気持ち悪」 「本当に、どうもないんだよな」 「は?意味不明なんだけど」 「なら、いいんだ。うん、それなら……いいんだ」 今日は雪が降るかもしれない、と思うくらいぶっ飛んだ溝田君の行動に、トモミは気味悪がって身震いをする。 私も島津君も、ただただ苦笑する他なかった。
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