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昼休み、最近では溝田君と一緒に食堂へ行くことが多かったのだが、この日はチャイムが鳴ると同時に、トモミに引っ張られて空き教室へと連れてこられた。
引っ張る手の強さに、大股で早い足。
「あっぶなっ、危うく彼氏に先越される所だった」
「えー……、何それ」
まぁまぁと言いながら、彼女は息を整えるよりも先に、一冊の料理本を私の胸に突きつけてくる。
付箋が貼ってあるページを開くと、季節のフルーツがたっぷり使われた、美味しそうなホールのケーキ。
「……美味しそう。えぇと、これを作ってほしいって……こと?」
「そう、明後日佑馬の誕生日じゃん?転校前だし、コウタロウと何かしようって今話をしててさぁ」
私が土台のケーキを作って、その上にトモミの美的センスを活かして、似顔絵のデコレーションを施すらしい。
島津君に怖いって言われるキャラクターしか描けない自分にとって、彼女の絵の才能は羨ましかった。
「コウタロウはバースデーソング歌って、後は何か別にプレゼントでも渡すんじゃない?」
「そっかぁ。島津君の誕生日、七夕だったよね」
一度教えてもらってから忘れることのなかった、彼の誕生日。
でももう関わることは愚か、おめでとうとさえ言えないと思っていたのに。
「あたし、可純に焼いてもらったケーキの美味しさが忘れられなくって、是非佑馬にも作ってほしいと思ったんだけど、嫌?」
「……ううん、嫌じゃない。私でよかったら、作らせてほしい」
以前食べてもらったものよりも、もっと完璧に。
お世辞じゃなく、心から美味しいと思ってもらえるようなケーキを。
言葉や態度になるとギクシャクしがちになってしまうからこそ、心の奥底にある本心を、私はどうにか彼に気付いてほしいと思っているのだろうか。
どうしてこんなに張り切ってるんだろう。
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