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「ホント暑いね。溶けちゃいそうだ」
帰り道、そう言いながらも手を繋いできた溝田君は、やっぱり今日一日どこか様子が変だった。
朝の態度以降不審に思う場面はなかったのに、しっくりこない。
目に見えるものではない、としたら雰囲気だろうか。
「相変わらず可純ちゃんは白いね。雪みたい」
「……その可純ちゃんって」
「あ、ごめん。前は佐藤さんって言ってたよね。戻した方がいい?」
「そういうわけじゃ。まぁ、どっちでも」
違和感を感じるのは、突如変わった名前の呼び方も一つ。
昨日まで苗字にさん付けだったのに、どういった心境の変化なのだろう、分からない。
余裕さえ感じる態度は、まるで――
「溝田君、現実の世界で何かあったの?何だか別の人……大人?みたいだよ」
「マジで、それは嬉しいかも。俺も成長したってことか」
「え?」
「ううん、何もない。ありがと」
そして、自分からしたら私のことが幼く見える、と言った彼はアハハと笑った。
同じ年齢なのに、小馬鹿にしてる。
「……酷い」
「ごめん、ついつい。でも、俺は可純ちゃんのこと、好きだよ」
やがて私の自宅の前まで来ると、溝田君は炎天下の中、躊躇なく腕を伸ばしてきた。
彼の胸にスッポリと収まる私は身動きを取らず、そのまま立ち尽くす。
だけど、そんな反応をとっても、彼は愛しい物に触れるように優しく頭を撫でてきた。
「会えてよかった」
「溝田君?」
「俺、やっぱり可純ちゃんのこと、本気で好きだったんだなぁって思ったもん」
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