俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

6/30

476人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
* 「ホント暑いね。溶けちゃいそうだ」 帰り道、そう言いながらも手を繋いできた溝田君は、やっぱり今日一日どこか様子が変だった。 朝の態度以降不審に思う場面はなかったのに、しっくりこない。 目に見えるものではない、としたら雰囲気だろうか。 「相変わらず可純ちゃんは白いね。雪みたい」 「……その可純ちゃんって」 「あ、ごめん。前は佐藤さんって言ってたよね。戻した方がいい?」 「そういうわけじゃ。まぁ、どっちでも」 違和感を感じるのは、突如変わった名前の呼び方も一つ。 昨日まで苗字にさん付けだったのに、どういった心境の変化なのだろう、分からない。 余裕さえ感じる態度は、まるで―― 「溝田君、現実の世界で何かあったの?何だか別の人……大人?みたいだよ」 「マジで、それは嬉しいかも。俺も成長したってことか」 「え?」 「ううん、何もない。ありがと」 そして、自分からしたら私のことが幼く見える、と言った彼はアハハと笑った。 同じ年齢なのに、小馬鹿にしてる。 「……酷い」 「ごめん、ついつい。でも、俺は可純ちゃんのこと、好きだよ」 やがて私の自宅の前まで来ると、溝田君は炎天下の中、躊躇なく腕を伸ばしてきた。 彼の胸にスッポリと収まる私は身動きを取らず、そのまま立ち尽くす。 だけど、そんな反応をとっても、彼は愛しい物に触れるように優しく頭を撫でてきた。 「会えてよかった」 「溝田君?」 「俺、やっぱり可純ちゃんのこと、本気で好きだったんだなぁって思ったもん」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加