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彼の唇が、私の右頬に触れる。
次は反対側に、最後に唇が重なると、再び溝田君は私の体に手を回した。
「ちゃんとするから、もう少しだけ俺の傍にいて」
言っていることが不思議で聞き返そうとするのに、溝田君は首を振るだけで、私を抱き締め続ける。
「世界を破壊するなんてことしないから、安心して」
「……うん」
「俺は可純ちゃんのこと、好きなだけだから」
ただ私さえいればいい、とまで言ってくれる人は、もちろん今までいたことがなかった。
何の取柄もなく、特別明るいわけでも、子供のように素直でもない。
そんな私を、何で溝田君はここまで必要とするのだろう。
「どうして」
「理由なんてもうよく分かんね。でも可純ちゃん、俺を事故から救ってくれたじゃん」
それは、彼が転入してきてすぐの頃だったろうか。
目の前で車にしかれそうになる人を見て見過ごす人など、居ないと思うが。
「あの時から、俺は可純ちゃんのこと気になってた。可純ちゃんが何と言おうと、救ってくれたのは可純ちゃんであって、これは運命だと思ってる。ありがとう」
「そんな風に言ってもらえるのは、ありがたいよ」
「うん。……ホント、感謝してるから」
溝田君は絡めた腕を離そうとはせず、今朝のように何かを確かめるように、私の背中や肩に何度も触れてきた。
その際、こそばゆくてつい笑ってしまった私に、彼は再度口付けをする。
「週末、どっか遊びに行こ」
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