俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

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* 何度も何度も練習を重ねて作り上げたケーキを、彼は喜んで受け取ってくれたようだった。 「ケーキ、佐藤もありがとな。嬉しかったよ」 七夕の日の放課後、溝田君と一緒に教室を出た所で、私は島津君と桜子ちゃんとバッタリ出くわしてしまい、そこで彼は堂々とお礼を言ってきた。 「家で食べようと思ってる」 「佑馬君、ケーキって?」 「コウタロウとトモミと佐藤からのプレゼント。何か今年はたくさんの人から祝ってもらって、思わずウルッときてしまった」 別に、桜子ちゃんの何か言いたげな視線に、引け目を感じなければいけない問題はない。 だから何も考えずにフラットに接すればいいものを、私は。 誰の前でなく、島津君の前だと、素直に笑顔を向けることさえままならない。 ただ彼を想い、彼と過ごす時間に濃い思い出は出来ず、時間が過ぎてゆく。 焦る気持ちはあるのに、自ら行動なんて出来なかった。 もし溝田君と特別な関係ではなかったら、何か変わっていたのだろうか。 いやどちらにしろ、私は自分に自信が持てないまま、一人ウジウジしていただろう。 二人っきりの時間を思い描けば描く程、更に島津君は遠い存在になった。 「じゃあな、佐藤」 終業式の放課後、溝田君と一緒にいる私に、彼は大きく手を振ってきた。 「溝田も元気で」 「島津も新しい所で頑張れよ」 それは、とても、とても、呆気ない別れ方。 トモミや水内君を通してでないと接する勇気が持てない私は、何も言えないまま、島津君の笑顔を目に焼き付けるだけ。 溝田君を怒らせて世界がどうなろうと、もし気持ちをぶつけていたら、どうなっていたんだろう。 私の大切な人は、未来を楽しく生きていたのだろうか。 それは分からない。 でも、やっぱり私は一緒にいたかった。 心を開くことができなくても、ずっと近くにいたかった。
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