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-島津佑馬
さて、あれは夢か幻か。
確かにあの時俺は、全てを告げた佐藤の味方になろうと思ったし、力強く彼女の手を握ったはずだった。
でも証拠のない記憶上だけの出来事で、傷一つない自分の体と、晴れ渡る空は現実そのものを物語っている。
あの夜、一人公園にいた佐藤は、俺の都合の良い妄想か。
世界を揺るがす赤い衝撃は、幻想だったのか。
全て――全て、覚えているつもりなのに。
俺は何事もなく生きている。
*
「佑馬君、とうとう明日出発なんだね」
前日まで部活動に参加した帰り道、桜子はふいにポロポロと涙を零し始めた。
「嫌だよぉ、佑馬君がいない学校なんて、もう行きたくない」
「何言ってんだよ」
なんて返しながら浮かぶ、あの日、あの子の涙。
表面の付き合いばかりで、滅多に感情を出さない人の突然の涙には狼狽えた――はずだった。
俺がいいって、俺じゃなきゃ駄目だって言ってくれたのに。
「私は佑馬君がいてくれないと、生きていけない」
「桜子を好きな人はいっぱいいるよ。今日も一年がデートに誘いたいって言ってたし」
我ながら、よく最後まで思わせぶりな態度一つしなかったと思う。
寛大なように見えて、一度決めたら梃子でも動かない性格は、自分が一番知っている。
「どうせもう可純ちゃんとも会う機会ないんだよ?私にすればいいじゃん」
「桜子、ごめんね」
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