俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

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-溝田圭吾 彼女が何一つ変わらない姿のままだったからなのか、俺が成長したからなのか、久しぶりに触れた可純ちゃんは随分幼く感じた。 本当に、あの時と何も変わらない仕草、表情。 とても愛おしい。 「可純ちゃん?またボーッとしてるよ。……考えてる?」 何を、とは問わないのに既に理解されている主語。 「違うよ、そんなんじゃない」 高校二年の夏休みが明けると、可純ちゃんの元気がなくなったのはもちろん、島津のいなくなった学校は俺の目にもどことなく違って見える。 爽やか、青空、笑顔。 この青春臭い三つの単語が、これほどまでにマッチする人物を、俺は島津佑馬以外に見たことがない。 「俺ね、来週からバイトすることになったんだぁ」 彼女を愛し、ずっとこのまま一緒に時を過ごしたいと思う反面、俺はこの架空の世界で生きるわけにはいかない。 神保原の父親が『HEART』を治してくれたのは、本来生きるべき世界へ戻るためのきっかけ。 「どこでするの?」 「ガソリンスタンド」 現実でのバイト歴はもう一年、多少店のシステムの違いがあれど、すぐに慣れるだろう。 「急な話だね。前はバイトなんて嫌だって言ってたのに」 「お金貯めてやりたいことがあってね。だからバイトの間は一緒に帰れないけどいい?」 薄く微笑んで頷く可純ちゃんの頭に手を置くと、俺は優しく髪の毛に手を通す。 俺が汗水流して貯めたお金で、彼女を幸せにしようと考えている。 だから、その間だけは隣にいて欲しい。 自分の計画した額が手元に届くまでの時間は、決して彼女の手を離さない。
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