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『溝田様、一体何を考えてらっしゃるのですか』
「今回は愛本にも秘密。俺のするべきことだよ。使命ってやつ?」
『最近性格変わりましたよね。良くなった所もありつつ、強引さには磨きがかかっている感じで』
「また説教くせぇな。愛本は俺の友達でいればいいんだよ」
それからは『HEART』でも現実でも、俺はガソリンの臭いを纏い、地道にお金を貯めては思い描く未来の形をきちんと整理していく。
時間だけはあったんだ。
だから、全て自分の力でやり遂げて、スキップなんて姑息なことはしない。
「やっぱり溝田君は可純ちゃんのことが好きなのね」
「俺ってこんなに一途だったんだなって、ちょっとビクッた」
「いいえ、泣き崩れて私のお父さんに『HEART』を元に戻してと頼むあなたの姿を思い出せば、気持ちの強さは分かるわ」
夏季休暇の昼下がり、俺の未来を耳にした神保原は、ロングヘアーをかき上げてコクリと頷く。
変わらず彼氏を作らないままのクールな彼女は、目が合うと微かに口角を上げた。
「溝田君が『HEART』でのやるべきことを終えたら、私、あなたにお願いと提案があるの」
「何それ」
「まだ言わない。終わるまで待ってる」
どんなに時が経とうとも、『HEART』での一分一秒を大切に過ごしていると、現実で三回生の冬季休暇を迎える頃に、ようやくゲーム世界では長い長い九月を終えた。
このうだるような作りものの夏は、半年もの期間をかけて、幕を閉じようとしている。
「……よし、これで大丈夫だ」
そして、ようやく一ヶ月分のバイト代を手にしたその日、俺は自室で無理に可純ちゃんの唇を奪い、その柔らかな体に誰よりも先に触れてしまった。
「優しくするから、安心して」
高校生の頃のように変な想像をしてギャーギャー騒ぐ思春期の子供ではなく、俺は心でも体でも可純ちゃんを感じ、彼女のことを強く抱き締める。
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