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-佐藤可純
彼が世界の支配者だということと、彼が自分を特別に想う気持ち、そしてその先に求められた関係。
私は溝田君のことを恐れていても、嫌いではない。
心のない冷酷な人ではない、優しいんだ、大丈夫。
だから、受け入れよう、受け入れなければならないと思っていたはずだったのに、私は彼の熱を受け止められなかったんだ。
甘い吐息も、わずかな嬌声さえ漏れることなく、それはまるで、背筋の凍るような固い氷の上に寝かされている気分。
だけど、そんな私を見て、溝田君は一筋の涙を流して何度も頭を下げてきた。
違う、謝るのは私の方。
「ごめん」
ごめんね。
ごめんなさい。
――ピンポーン。
まだ誰も起きていない早朝、家の中に響くチャイムで目を覚ました私が窓から顔を出すと、玄関前には溝田君が立っていた。
「えっどうして!?」
「昨日朝一で出掛ける約束したじゃん。もしかして忘れてた?」
こちらを見上げる彼は、しゃんとした佇まいに加えて、学校でもないのに制服姿。
「だって、朝一って言っても、いつも九時前じゃなかったっけ。ちょっと待って、まだ何も用意してないよ」
「待つよ、可純ちゃんも制服に着替えて来てね。朝ご飯は途中で食べよう」
時計を確認すると、時刻はまだ午前七時も回っていない。
幸い、休日はだらしなくお昼頃まで眠る両親や弟が起きてくることはなく、私は溝田君に言われるがまま、顔を洗ってブラウスに袖を通す。
――どこに行く気なんだろ……。
昨夕の彼の体温はまだ覚えていて、本人を見ると生々しさを感じる。
気にしちゃ駄目だ、左右に首を振って頬を叩くと、私は教科書の入ったままの学生鞄を掴んで外へと飛び出した。
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