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「二人とも……どうしたんだよ」
泣き腫らしたのか、目を真っ赤にした彼等はお互いを見合って笑っている。
状況が把握できていないのは俺だけなのか。
「昨日の電話は何なんだよ。言うことだけ言って、一方的に切ってさ」
「言った通りだよ。可純ちゃん、ちゃんと連れて来ただろ」
後はごゆっくり、とだけ言って、顔を洗ってくると傍を離れていく溝田。
元々高身長なのに猫背になって歩いている姿には、大きな疲れを感じる。
「島津君」
名を呼ばれて隣を見ると、懐かしい制服を着た佐藤がチラチラとこちらを見上げていた。
潮風が彼女の髪の毛と紺色のスカートを揺らし、橙色の夕日が横顔を照らしている。
「いきなり来てごめん。迷惑……だった?」
「そんなわけないだろ。でも、一体何なの。喧嘩して仲直りしましたって所?」
ただの痴話喧嘩でこんな遠い所まで来られたら、そりゃウンザリだ、と言いたい気持ちは何とか押し殺し、じっと様子を伺う。
――今後、会うかどうかさえ分からないと思っていた人なのに。
確かに佐藤は今目の前にいて、俺のことを見ている。
「違う」
「じゃあ、説明して。俺、溝田に佐藤のことよろしくって電話で言われたんだけど」
「えっ……溝田君、そんなことを」
「どういう意味」
こちらの態度とあいつの言葉にたじろぐ彼女は、何か言いたげに言い淀んでいる。
突っ立ったまま張り詰めた空気が流れるのは気まずくて、浜辺に向かってゆるゆると歩き始めると、後ろからも足音が続いた。
「佐藤は俺の気持ち、知ってるよね」
「……うん」
「わざわざ会いに来てくれたって、思ってもいいの。俺、どんな風に受け止めたらいい」
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