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夏を通り越した秋の海に人の姿はまばら。
俺は砂浜の真ん中まで来ると、後ろに両手をついて腰を下ろし、彼女を見上げる。
「私……ね」
「うん」
「私……」
しかし、やはり隣に座った佐藤は、俺の前だと笑おうとはせずに顔を引きつらせる。
例えるならば、授業中当てられて答えが分からない人、そんな焦り方。
――その反応、好きじゃないんだよな。
「ちょっとタイム。ねぇ、どうして俺の前では笑ってくれないの」
ふざけたり羽目を外す時だってあると思うのに、自分が思う以上に、俺はクソ真面目で何の面白みもない人間なのだろうか。
変な不安さえ抱く。
「だいたい、何で楽しそうにしてくれないのに、会いに来たの。ここまで来たんなら、ちゃんと答えろよ」
「だから、それは……」
多少きつい言い方をしてでも、このまま帰すわけにはいかなかった。
すると、砂に埋もれていた掌に重ねられた温もり感じた瞬間――
「好きだから、笑え……ない」
「……俺のこと?」
「凄く、好きだから……緊張す、るの。意識すればする程、笑えな……くて」
ロボットみたいな口調の佐藤は、手を重ねたまま、真下を向いて微動だにしない。
ただ顔だけは茹蛸のように赤く、冗談や嘘には捉えられなかった。
「溝田と別れたって本当?」
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