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「『HEART』を壊してしまえば、その瞬間世界は終わるわ。だから私、お父さんに頭を下げたの。もう『HEART』に触れはしないから、壊さないでって」
「……待って。神保原、俺の言いたかったことそっくりそのまま言ってる」
スキップなんて一瞬にして行える動作でも、した分の時間は、あちらではプレイヤーを待たずに時を刻むことになる。
――機械とソフトが無事である限り。
だから俺は、どうにかして『HEART』を手元で守っていくつもりでいたのだ。
「私、溝田君が可純ちゃんに会いに行っている間、一度だけコウタロウ君に会いに行ったのよ。全てを話して、あなたと同じように別れを告げたわ」
「……知らなかった」
俺は自分のことで精一杯で、神保原の気持ちなんて考えたことなかったのに。
彼女はいつも俺の話に耳を傾け、どんな時も近くにいてくれた。
出会った頃の印象は悪かったのに、今じゃ心から信頼を置く相手になっていた。
「私、今の溝田君のこと、好きよ。だから、これからもずっと一緒にいて欲しい。私はあなたと一緒に、現実の世界を歩んでいきたい」
「……神保原、ありがとう。やっぱ神保原の言葉って、何か心強いな」
就活を控えているからと再び黒に染めた髪をかき上げ、俺は参ったと笑みを浮かべた。
「これからはもっと頻繁に連絡をとってもいいかしら」
「もちろん」
やがて呼んでいた神保原の父親が、仕事を終えてお店に現れた。
相変わらず寒そうでだらしのない格好。
でも既に話はついていて、場は和やかな雰囲気になりそうだ……と思っていると、何やらぞろぞろと後ろから大人達が続いてくる。
そして、その中の一人――面影を残した女性を見た途端、俺は思わずガタリと椅子を立っていた。
「……可純ちゃん」
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