俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

26/30

476人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
「『HEART』を壊してしまえば、その瞬間世界は終わるわ。だから私、お父さんに頭を下げたの。もう『HEART』に触れはしないから、壊さないでって」 「……待って。神保原、俺の言いたかったことそっくりそのまま言ってる」 スキップなんて一瞬にして行える動作でも、した分の時間は、あちらではプレイヤーを待たずに時を刻むことになる。 ――機械とソフトが無事である限り。 だから俺は、どうにかして『HEART』を手元で守っていくつもりでいたのだ。 「私、溝田君が可純ちゃんに会いに行っている間、一度だけコウタロウ君に会いに行ったのよ。全てを話して、あなたと同じように別れを告げたわ」 「……知らなかった」 俺は自分のことで精一杯で、神保原の気持ちなんて考えたことなかったのに。 彼女はいつも俺の話に耳を傾け、どんな時も近くにいてくれた。 出会った頃の印象は悪かったのに、今じゃ心から信頼を置く相手になっていた。 「私、今の溝田君のこと、好きよ。だから、これからもずっと一緒にいて欲しい。私はあなたと一緒に、現実の世界を歩んでいきたい」 「……神保原、ありがとう。やっぱ神保原の言葉って、何か心強いな」 就活を控えているからと再び黒に染めた髪をかき上げ、俺は参ったと笑みを浮かべた。 「これからはもっと頻繁に連絡をとってもいいかしら」 「もちろん」 やがて呼んでいた神保原の父親が、仕事を終えてお店に現れた。 相変わらず寒そうでだらしのない格好。 でも既に話はついていて、場は和やかな雰囲気になりそうだ……と思っていると、何やらぞろぞろと後ろから大人達が続いてくる。 そして、その中の一人――面影を残した女性を見た途端、俺は思わずガタリと椅子を立っていた。 「……可純ちゃん」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加