俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

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* あれから、何年の月日が過ぎたんだろう。 『HEART』から離れてからはバリバリの就活生となり、挫折しながらも何とか内定をもらうことができた証券会社で、俺は忙しい毎日を送っている。 新入社員の時はそれこそ毎日のように失敗ばかりで、頭を悩ませる日々が続いた。 でも俺には、しっかり者の彼女、神保原ウミ子がついていた。 『しっかりしなさいよ。情けないわね』 そうこうしながらもやがて後輩もでき、仕事をする上でも心に余裕ができた頃、俺は彼女と同棲生活を始めたんだ。 『HEART』生産中止後、新たに発表したゲームで再び急成長を見せた父親の会社で、社長秘書として働く神保原。 彼女は彼女で忙しいのに、家事や料理で手が抜かれたことはない。 俺にとって、大事な存在。 「おかえり、今日は早かったわね」 「疲れたぁ、お風呂沸いてる?」 「えぇ、その間にご飯も用意しておくわ。今日は圭吾君の好きなカレーライスよ」 よっしゃ、と言いながら、俺は畳の間に置いてある二つの機械に向かって、ただいま、と声をかける。 反応はないのに、何故だろう。 おかえり、とどこからか声が聞こえたような気持ちになり、ふっと頬が緩む。 可純ちゃん、島津、元気にやってますか。 そちらの溝田圭吾とは、仲良くしてくれていますか。 俺はまだ社会の中じゃ若造で、失敗も多いけど、地道に頑張ってます。 二人に会っても胸を張れるくらいには、頑張ってます。 「何を話しているの?」 動かない俺を察してやって来た神保原は、隣に腰を下ろすと、片手を俺に腕に、そしてもう片方は『HEART』に触れて優しく微笑む。 「みんな元気かなぁと思って」 「きっと大丈夫よ。それぞれの世界の中で、ちゃんと生きているわ」
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