476人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
*
あれから、何年の月日が過ぎたんだろう。
『HEART』から離れてからはバリバリの就活生となり、挫折しながらも何とか内定をもらうことができた証券会社で、俺は忙しい毎日を送っている。
新入社員の時はそれこそ毎日のように失敗ばかりで、頭を悩ませる日々が続いた。
でも俺には、しっかり者の彼女、神保原ウミ子がついていた。
『しっかりしなさいよ。情けないわね』
そうこうしながらもやがて後輩もでき、仕事をする上でも心に余裕ができた頃、俺は彼女と同棲生活を始めたんだ。
『HEART』生産中止後、新たに発表したゲームで再び急成長を見せた父親の会社で、社長秘書として働く神保原。
彼女は彼女で忙しいのに、家事や料理で手が抜かれたことはない。
俺にとって、大事な存在。
「おかえり、今日は早かったわね」
「疲れたぁ、お風呂沸いてる?」
「えぇ、その間にご飯も用意しておくわ。今日は圭吾君の好きなカレーライスよ」
よっしゃ、と言いながら、俺は畳の間に置いてある二つの機械に向かって、ただいま、と声をかける。
反応はないのに、何故だろう。
おかえり、とどこからか声が聞こえたような気持ちになり、ふっと頬が緩む。
可純ちゃん、島津、元気にやってますか。
そちらの溝田圭吾とは、仲良くしてくれていますか。
俺はまだ社会の中じゃ若造で、失敗も多いけど、地道に頑張ってます。
二人に会っても胸を張れるくらいには、頑張ってます。
「何を話しているの?」
動かない俺を察してやって来た神保原は、隣に腰を下ろすと、片手を俺に腕に、そしてもう片方は『HEART』に触れて優しく微笑む。
「みんな元気かなぁと思って」
「きっと大丈夫よ。それぞれの世界の中で、ちゃんと生きているわ」
最初のコメントを投稿しよう!