俺は世界に切り取られた女の子に恋をした

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-佐藤可純 「いい加減、苗字じゃなくて下の名前で呼べばいいじゃん」 高校三年生のお盆休み、約一年ぶりに、島津君は私の住む街へ戻ってきていた。 恋人同士となって顔を合わせるのもまだ数回で、やはり遠距離というのは未成年の学生にとってはとても高い壁であり……。 「電話では佑馬君って言ってくれるんじゃん。何恥ずかしがってんだか」 「だって、本人を目の前にしたら……恐れ多くて」 「意味不明。ただでさえ普段会えないから特別な時間なのに、他人行儀だよなー」 ふくれっ面で手を握ってくる島津君は、私の腕を引いて先を歩く。 じんわりと温かい、彼の掌。 会いたいとは思っても、今まで不安に陥ることがなかったのは、こうやっていつも彼が私を包み込んでくれるからだった。 「溝田は元気?」 「元気だよ、仲良くしてる」 「大泣きされて別れてから、一度も会ってないんだよなぁ」 N宮へ送り届けてもらってから、溝田君に特別な変化が見受けられたことはなかった。 でもほんのたまに、私のことを"佐藤さん"と呼んで、カラッと笑うことがある。 私が最後まで見届けた溝田君は、そんな風には言わない。 彼と自分だけの秘密を、私はいつ特別な人に打ち明けよう。 「あ、噂をすれば本人じゃん」 島津君が指を差した先には、太陽の光を受けて大きく手を振るあの子の姿。 「溝田、久しぶり!」 「おー島津、元気そうじゃん!」 確かに、彼は本物の溝田圭吾君ではないかもしれない。 でも彼は今でも私の大切な友達であり、"心"のない人には見えなかった。 ……っと、その時―― 『溝田圭吾と仲良くしてやってね』 どこからともなく降りてきた言葉に私が頭上を見上げると、雨が降っていたわけでもないのに七色の虹がキラキラと輝いていた。
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