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島津君は無理すんなよー、って笑うと、体を斜め向ける。
「うん、大丈夫。ありがとう」
綺麗じゃない姿は見せたくない。
私は彼に見えぬよう、膝の上に置いておいたタオルをそっと足の上にかけた。
その日の体育のマラソンは見学した。
ストップウォッチを持った先生の横に立ち、周ごとに個人のタイムを付けていく。
「おーっ可っ純ぃ!」
私の前を通り過ぎる時、トモミが久々の再会かの如く喜ぶので思わず笑ってしまう。
――大げさだなぁ。
「ほら、話さないでちゃんと走りなさい」
「はーい」
先生も呆れ気味にトモミのことを笑う。
あの調子じゃまだ余裕がありそう。
そしてまた暫くすると、見知った姿が前を通り過ぎた。
――溝田君だ。
息遣いは既に荒く、顔を真っ赤にして、それでも一生懸命に前へ進む。
男子の中では最下位に近い方。
身長は高いけど、歩幅は小さくゆっくりだ。
「……頑張って」
先程のトモミに比べて、余裕は微塵も感じられない。
頑張っている姿に、思わず声援を送っていた。
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