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放課後になると、帰るために私の席にやって来る溝田君。
その際、視線がチラッと足元を気にするのが分かった。
「帰ろっか」
気にしてほしくない。
私は彼が何かを言う前に教室を出ていく。
「溝田君、マラソン頑張ってたね」
「俺すげー遅いよな、カッコ悪い」
「そんなことないよ」
一生懸命な人は、キラキラしてる、と言うと彼はクツクツと笑った。
「佐藤さん、それ何気に恥ずかしい言葉な気が」
「そうかな?」
なんて緩い会話をしながら下駄箱を通り過ぎると、一生懸命でキラキラしてる人が前方に現れた。
ジャージ姿の島津君と桜子ちゃんが、仲良さげに肩を並べてどこかへ向かっている。
横顔しか見えないのに、島津君がニコニコしているのはすぐに分かった。
「桜子ちゃんだぁ」
隣を見ると、彼は彼女の背中を見ていた。
「そういえば溝田君、桜子ちゃんのこと狙ってたよね」
人気のある彼女、いくら溝田君でも結ばれるのは難しい気がする。
それに、彼女は島津君のことを……。
「別に好きじゃないし、狙ってもないよ」
「え、そうなの?」
「ただ可愛いなって思っただけ。性格的に合わなきゃ、好きにはならないよ」
この前と顔つきが違う。
柔らかいが真剣な表情で、溝田君は私に向かって笑いかけた。
「転校したばっかの時は、今すぐにでも彼女欲しいって思ってたけどね。ちょっと考え方変えようと思う」
桜子ちゃんのこと、あんなにべた褒めしていたのに不思議。
私はふーん、と軽い感じで前を行く二人から視線を逸らす。
自分だって、島津君とあんな風に笑顔で語り合いたい。
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