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明後日はトモミの誕生日。
食べることが大好きな彼女に、今年私はホールの手作りケーキをプレゼントしようと思っている。
バレンタインのチョコを大そう喜んでくれていた様子に、物ではなく食べ物にしようと決めたのはその時だった。
――うーん、難しいのは作れないだろうからなぁ。
放課後、私は珍しく図書室で一人レシピ本と睨めっこしていた。
溝田君は先に帰ってもらっている。
人がまばらな静かな図書室で本を眺めること、二時間。
途中ぼんやりしたり課題をやったりしている間に、辺りはすっかり闇に包まれていた。
「そろそろ閉めますけど」
図書委員の気まずそうな声かけに顔を上げ、私は急いでレシピをコピーすると図書室を後にした。
下駄箱に向かいながら窓の外を見ると、部活生達がバタバタ校門を潜っている。
暗闇の中、自転車のライトだけがポツポツ目立って見えた。
――毎日こんなに遅くに帰ってるんだ。
すごいなぁ、と感心しつつ、今日は自分もまだスーパーに寄って帰る。
明日の夜はケーキ作り本番、そして今夜は練習。
コピーした紙と食材とを見比べて、必要な物を籠の中に入れていく。
――喜んでくれるかな。
トモミの笑顔を頭に浮かべると、自分も嬉しくなるの感じた。
そして何気なく関係ない野菜売り場へ足を踏み入れた時、エプロン姿のあの子の後ろ姿に、私は咄嗟に声を漏らしていた。
「島津……君?」
「あれ、佐藤。買い物?」
やっぱり、島津君。
制服の上に青色のエプロンをかけた珍しい姿。
手に持たれた籠の中には、いくつかの食材が入っていた。
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