世界の何処かで、何かがハジケタ

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「トモミの誕生日に渡す、ケーキの材料を」 聞かれるがままに、ポロッと言ってしまった後にハッとする。 「あっ、ちが……いや、このことはトモミには」 「大丈夫、黙っとく。あいつ誕生日近いんだね」 「うん、明後日だよ」 ありがとう、と頭を下げると、島津君のかけているエプロンの濃い青色に目が釘付けになった。 ちょっとだけ汚れた跡が見える。 少し顔を上げると、彼の手の甲には買うべき物らしい名前が箇条書きしてあった。 「島津君、いつも部活帰ってから自分で料理してるの?」 「ううん、親が作ってくれるよ。俺はたまに手伝ってるくらい」 私がエプロンをじっと見るからか、彼は笑って手を振る。 「さっき部活から帰ってきたんだけど、お醤油切れてたからちょっと買ってきてーって」 どうりでまだ髪の毛が濡れていると思ったら。 室内なのに、彼の鼻の頭はほんのり赤みを帯びている。 「どうせだからと思って、明日の弁当の材料買ってたんだー」 当たり前のように言っているが、感心してしまった。 私の一つ下の弟は、家で包丁を握ったことがない。 反抗期真っ盛りで両親は手を焼いている。 少しは島津君を見習ってほしいくらい。 「泳いだ後って、すごくお腹空くでしょ」 「ヤバいね、さっきからグーグー言ってるもん」 お喋りをしながら、島津君は慣れた手つきで食品を見極めていく。 正直、自分よりずっと手馴れている感じがした。
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