世界の何処かで、何かがハジケタ

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精算を済ませて外に出ると、歩き出す方向が同じで驚いた。 「佐藤もこっちなの?」 「うん、ここから五分くらい」 「え?俺も五分なんだけど」 住んでいる場所を詳しく聞いてみると、自宅のすぐ近所だった。 どうやら島津君の家との間に、ちょうど境界線があるらしく、校区が違ったようで。 「知んなかった、何かすげー!」 「ホントだね、こんなに近くだったってビックリ」 単純に驚く彼の横で、私は嬉しくて頬が緩む。 でも表情は暗闇に隠され、私は下を向かずに隣を歩く島津君を見上げる。 ――桜子ちゃん、いつもこうやって島津君のこと見てるのかな。 彼の隣にはいつも桜子ちゃんがいる。 どんなに周りに女の子がいても、彼女は特別だと皆が思っていた。 島津君が誰からの告白も断り続けているのは、桜子ちゃんのことを想っているからなのかもしれない。 ――お似合いだもんな。 桜子ちゃんのこと、ライバルだなんて思ったことない。 「佐藤は帰ったら、ケーキ焼く練習すんの?」 「うん、明日一発で成功するとは思えないから」 「じゃ、練習で失敗したケーキ、全部自分で食べるつもり?」 考えてもいなかったことを聞かれ、私はボケーッと考えてしまう。 確かに失敗作なら、家族も食べたがらないだろう。 「そうなるかな、また太っちゃうね」 ヤダヤダ、とお母さんみたいにふざけてみる。 そしたら島津君は面白そうな瞳をした後、私にニッと笑顔を向けてきた。 「そんじゃそれ、俺が食べる」 だから明日のお昼は一緒に食べよう、と言って自分の家の方に去っていく。 「えっ島津く……」 「あー、明日昼休み、屋上ね」 言葉を返す暇もなく、取り残された。 失敗作なんて……渡すわけにはいかない。 普段は試験前しか徹夜をしないのに、この日私は成功するまで何度もケーキを焼き上げたのだった。
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