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「お疲れ」
既に来ていた島津君は、壁に背を付けて胡坐をかいていた。
距離を置いて隣に座ると、いそいそと袋の中から箱を取り出す。
「これ……ホントに、全部食べるの?」
「食べるよ、開けてみてもいい?」
「うん」
デコレーションの施されたホールのケーキに、じっと視線を向ける島津君。
――うわぁ……じっと見てる。
私の胸がドキドキ音を立てると、彼は口角を上げた。
「これが失敗作?佐藤、嘘だろ」
――はい、嘘です。一生懸命作りました。
何も言わずに紙皿とフォークを出し、ナイフでケーキをカットしていく。
「無理して食べなくてもいいから」
「このくらい余裕」
島津君は自分のお弁当を食べる前に、ムシャムシャケーキを頬張った。
彼に甘い物は不釣り合いなのに、アンバランスな感じが可愛い。
「練習でこの出来なら、本番は完璧だな」
「ありがとう」
「これなら佐藤の家族も喜んで食べたと思うのに、何かごめんね」
自分が食べるとか、図々しいこと言ってしまってたな。
島津君はケーキを見つめて、白い息を吹きだす。
とても冷たい屋上。
誰の姿もないここで、島津君は私の隣で手作りのケーキを美味しそうに食べ上げてくれた。
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