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「トモミ、何も言わなかった?いつも二人でご飯食べてるだろ」
「ちょっと抜け出しにくかった、かな」
「だろうな、ごめん」
「ううん」
陽が出ても、すぐに厚い雲に覆い隠されてしまう。
色の薄い影が出来たり、出来なかったりする様子を見ながら、ご飯を口に含む。
普通にしているようで緊張はしていて、あまり味がしない。
「明日か、あいつ絶対喜ぶと思う」
だって美味しかったもん、と言ってくれる柔らかな瞳に、私はゆっくり目を逸らす。
「島津君の誕生日はいつなんだっけ」
「俺は七月。七夕の日だよ」
「素敵な日だね」
おり姫星とひこ星が天の川を渡って会うことを許される、特別な日。
その頃には新しい二年のクラスにも馴染んでいることだろう。
――クラス替え、したくないな。
「佐藤は誕生日いつ?」
「私は五月に入ってすぐ」
詳しい日付を口にすると、分かった、と返される。
「そんじゃ、その時は何かお祝いしないとね」
「え……ハ、ハハッ」
その場限りの言葉なのに、上手く流せずにじんわり頬が熱くなる。
クラスの人気者で、桜子ちゃんの隣にいる島津君。
そんな彼の隣にいる時間は、凄く貴重な時間なのに、ドキドキで息苦しさを覚えた。
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