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「管理人さん、初めまして……」
自分も『HEART』を所有していることと、現状をタイプする。
あわよくば知り合いになって、個人的にも色んなことを教えてほしい。
過去の記事を読んでいると、家を出る直前までパソコンの画面から目が離せなかった。
「圭吾、朝ご飯はー?」
「いらないっ、行ってくる」
バタバタ玄関を出て自転車に跨る。
後ろからは母親の溜め息が聞こえたが、振り返りはしない。
灰色の空も、冷たい空気も、ペダルを漕ぐ足の指の痛さも、感じるものは『HEART』も一緒だ。
管理人には恋人がいる。
どうやら同じクラスの生徒らしい。
……ということは、真っ先の転校先のクラスはプレイヤー皆同じだし、俺のクラスメイトの誰かと付き合っているということなのだろう。
――すごく気になる。
日々の学校生活について記されていることが多かったが、名前や性別は曖昧に書いてあり分からない。
でも、一つ引っかかる記事を見つけてしまった。
『私はズルい方法で、恋人を作ってしまった』
記念日だと思われる日の日記に、俺の心は惹き込まれる。
ズルい方法って、一体何なんだろう。
――裏ワザ?
見当もつかず、頭の中をグルグル、グルグル。
だから校門を間近に、俺はよそ見をして大木に正面衝突してしまった。
自転車から転げ落ち、激突したスネを押さえる。
開けっ放しだった鞄からは、教科書やノートが無残に道路に散らばっていた。
俺のことを憐れみの目で見る生徒。
中には馬鹿にしたように、クスクス笑うリア充の姿も見られる。
ここでは誰も助けてくれない。
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