世界の何処かで、何かがハジケタ

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こんなキラキラしてる店、入ったことない。 リアルの俺だったら立ち入ることを許されない、一番無縁な場所だった。 窓から差し込む陽光で、飾られているガラス玉や宝石が益々輝いている。 ――こ、こえぇ……。 あまりの眩しさに恐怖を感じ、俺は佐藤さんの腕を掴んでしまった。 「溝田君?」 「あぁ、ごめん。ちょっと立ち眩みしただけ」 「外出て休む?」 「いや、大丈夫大丈夫」 店内は女性客やカップルがほとんどで、とにかくキラキラが目を刺激してくる。 ――慣れないな。 普通を装いつつ、女の子と話をする時よりもドキドキした。 「高額な物は買えないけど、好きなのあったら言っていいよ」 「ううん、いいや」 「何で、素直に甘えてって言ったじゃん」 「気持ちだけで十分」 せっかくここまで来て、女が欲しがりそうな物が目の前にあるのに、佐藤さんは薄く微笑んだままジュエリーを見つめている。 「意味分かんない」 「お礼貰う程のことしてないから、いいって言ってるだけ」 それじゃあ、どうしてここまでついて来たんだ。 買わないアクセサリーを見ながら、佐藤さんは明らかにいつもより楽しげな表情をしている。 そしてそのまま、パッと俺の方を見ると 「溝田君、ありがとうね」 「俺はまだ、何もお礼してないんだけど」 「ううん、気持ちが嬉しかった」 だからここまで、ノコノコ来たのだろうか。 俺の睡眠時間の事情を知らないから、そんな風に笑顔になれる。 ――ふざけんなぁ……!クソーッ! でも、本当に嬉しそうに表情を緩めた彼女の姿を見ていると、自分も自然と笑顔になっていた。 結局その後は、自販機で飲み物だけを買うと、すぐに帰宅することに。 ――黙って受け取ればよかったのにな。 「愛本、佐藤さんのことどう思う?」 『可愛らしい女の子ですね』 「……だね」 俺は自分の財布の中身を確認しつつ、今までで一番の笑顔を見せた佐藤さんの姿を思い浮かべた。 ――あんな風に、笑うんだ。 「帰るからセーブして」 『了解です、お疲れ様でした』
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