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やがて視界が真っ暗になると、現実世界に戻っている。
「……今日も頑張ったな」
俺は椅子に座ったまま、ダランと天井を見上げた。
今日は寄り道をしたから、それだけ戻ってきた時間も遅く、睡眠時間も削られている。
でも寝る前に、と一応メールを確認すると管理人からメッセージが届いていた。
まぁどうでもいいような内容だし、明日返事をしよう。
こうやって毎日毎日、俺は飽きることなく『HEART』の世界に通い続けた。
あっちでは友達も出来て、笑っていることも多い。
桜子ちゃんとトモミさんは相変わらずな感じだけど、そこまで険悪なムードじゃなさそうだ。
島津は島津で……あいつは凄い奴だと思う時があった。
「そのゲーム何?俺も興味ある」
「えっ、島津君もゲームするの?」
「あんま詳しくないけど、やると楽しいよね」
現実の俺みたいなオタクっぽい奴とも、島津は笑顔で会話をする。
コウタロウとつるんでいる時同様、楽しそうに見える。
「へぇ、今ってこんなのあるんだ」
「あ、よかったら今度ソフト貸そうか……?」
「うわ、嬉しい。ありがと」
『HEART』の世界にも、底辺な奴らはいる。
でも存在感は薄く、俺は話したことがない。
だからこそ、リア充であるはずの島津が彼らとワイワイはしゃいでいるのは、不思議で仕方がない。
「島津君って、優しいよね」
「俺、中学も一緒だったけど、すごく良い人だよ」
あいつが去った後、残ったオタク達はニコニコしていた。
――すごい、すごいな。
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