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放課後、俺は誰よりも早く教室を出てプールへ向かった。
まだ部員も少ない中水に飛び込むと、部長がワーッと叫んだ。
「こら島津ー!ウォームアップ前に飛び込むなっていつも言ってるだろ」
「はーい」
適当に返事を返し、俺は平泳ぎでのんびり水中を散歩する。
生温い水が心地良い。
泳ぐことは昔から好きだった。
大会へ出て賞を獲得する程の実力はないが、こうやって年中水の中で時間を過ごすことが出来るのは、俺にとって嬉しいことである。
「佑馬君って、泳いでる時どんなこと考えているの?」
水を滴らせながらフロアに上がると、ジャージ姿の桜子が近付いてきた。
いつも下ろしている長い髪の毛は一つにまとめられており、首を傾げると一緒に揺れる。
「秘密」
「えー、何それ」
「ハハ、教える程のことは何も考えてないよ」
ふふ、と微笑む桜子は可愛らしい。
――でも、最近トモミと仲悪いんだよな。
何やってんだか、と思いながら知らん顔をしている。
すると、バンバン、とガラスを叩くような音が上から聞こえてきた。
見上げてみると、トモミが二階の見学場所から俺達を見ている。
「トモミ?何で……?」
「え、どうしてトモミちゃんがここにいるんだろう」
桜子にではなく俺に笑顔を向けているのは分かる。
そしてブンブン手を振るトモミの横にいる、突っ立ったままの佐藤。
目が合うと軽く頭を下げられた。
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