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「ちょっとあっち行ってくる」
呼ばれているような気がして、俺はトモミに手を振ると脱衣所へ向かう。
タオルを引っかけると、着替えることなくそのまま二階へ足を進めた。
キャップを外すと髪の毛は濡れてバサバサだけど、気にすることはない。
「うわっ、あんた何で着替えてないの」
「もう始まんのに、わざわざ着替えるわけないだろ」
俺を見るとトモミはあからさまに嫌そうな顔をした。
わざわざ来たっていうのに、気に食わない態度。
「何で来てんの」
「今日部活休みになったから、遊びに来ただけー」
トモミの話し方を見る限りじゃ、佐藤は付き合わされたように見える。
――何だかんだで佐藤って、トモミに引っ張り回されてるよな。
「ここで見学してていいんだよね?」
「うん、好きなだけいてもらっていいよ」
見学とは珍しい。
こんなこと入学して一度もなかったのに、どういう風の吹き回しだろう。
チラリ、佐藤を見やると、彼女はプールを見下ろしていた。
パチパチ瞬きをする様子じゃ、まだ退屈そうには見えない。
「珍しい?」
「うん、上から見ることって中々ないから」
溝田が気になっている人。
――何で、溝田にだけ笑ったの?
どうして。
付き合いは俺の方が長いのに、何か納得がいかない……。
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