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「佐藤、笑ってみて」
気付けば俺は、トモミがいる横で変なことを言っていた。
声に振り返った佐藤は、ポカンと口を半開きにしている。
窓の奥の階下では、もうボチボチ部員が集まっているのが見えた。
「佑馬、何変なこと言ってんの?」
「……だな。俺、変」
「バッカじゃないの、可純におかしなこと言わないでよね」
「うるさいな」
仲良くしたいと思っているのに、上手くいかないからモヤモヤしてる。
別に佐藤は彼女じゃないのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
家に帰ると、今日も母は仕事へ向かうためにせかせか準備をしていた。
俺は濡れた髪をかき上げ、湯気の出る料理を運ぶ。
「寒いと仕事出るのきついでしょ」
「まぁねー、でも佑馬のためだと思うと苦じゃないよ」
「春休みなったら、俺もまたバイトするから」
「しなくていいって言ってるでしょ」
母は俺が笑顔でいてくれるだけで十分だと言ってくれるが、いつも後ろめたさを感じる。
自分の為にどれだけ身を粉にして働いてきたか。
「ねぇ、誰か良い人いないの?」
「突然なこと言ってくるわね」
茶碗に盛られたご飯から出る湯気で、母がぼんやり白っぽく見える。
でもその奥で薄く微笑んだように見えたのは、果たして気のせいだろうか。
「もしかして何かあった時は、ちゃんと佑馬に教えるよ」
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