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「愛本は何か知ってる?」
誰かの名字らしき単語が出てきたが、返答する人はいない。
それでも溝田は楽しそうに会話をし、時には声を上げて笑う。
――こいつ大丈夫か。
心配になってしまって、ついに俺が道端に転がった石をわざと蹴り飛ばしたら、溝田はロケットのように飛び上がった。
振り返って目が合うと、まるで漫画の中の世界のように鞄を落とす。
「何やってんの、落ちてるよ」
俺が鞄を拾うと、気まずそうな顔をして目を逸らされた。
「お前面白いな」
「……何か、聞こえてた?」
「ん、すっごいこと言ってるから、声かけるタイミング失ってた」
一緒に歩き出すと、溝田はもう何も言わない。
俺のこと気にしなくてもいいのにな、なんて、俺は話の続きが気になって変なことを思う。
「独り言?」
「あぁ……まぁ」
「ビックリした……ってか、心配した。けど、普通だな」
「至って普通だよ。さっきのは聞かなかったことにして」
顔が青ざめていたのは一瞬で、溝田はすぐにいつもの好感度のある笑顔を向けてきて、俺もハハハと返す。
面白い人は好き。
あいつの頭の中には、一体どんな世界が広がっていたのだろうか。
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