世界の何処かで、何かがハジケタ

30/33
前へ
/253ページ
次へ
そういえば昨夜、家に帰って鞄を探っていると、自宅の鍵が見当たらなかった。 どうやらプール館内に落としたみたいで、俺は昼休みになると一人更衣室へ向かう。 なかったらどうしようとヒヤヒヤしたものの、ボロボロの青いミサンガの付けられた鍵は床に転がっていた。 前の彼女から作ってもらったミサンガ。 ――付けっぱなしになってたけど、これって付けてる意味ないよな。 探し物も見つかって一安心、午後は眠くなりそう。 大きなあくびを噛み殺しながら、教室へ後戻りする。 でもその途中、自販機の前に立つ佐藤を見つけてしまい 「何買ってんの」 「え?……あ、島津君」 よく声をかける俺を、彼女はどう思ってるのかは知らない。 「トモミは一緒じゃないの?」 「うん、また桜子ちゃんと口喧嘩してるみたいで」 止めに入ろうとした所、火に油を注ぐ結果になってしまったらしく、教室から追い出された、と。 「放っておいていいよ」 「でも、島津君のせいで二人は……」 彼女達を心配するような口調の中に、俺の名前を出すと、佐藤はハッとしたように苦笑する。 「別に責めてるわけじゃ……」 「俺、どうかした方がいいかな?」 「……分かんない、けど」 二人が揉めている理由が自分なのは知っている。 トモミに文句を言う桜子は見たことがないくらい必死で、そこで自分に対して向けられている好意をちゃんと感じた。 でも俺は彼女から告白をされたわけじゃないし、自ら止めに入るのもおかしな気がする。 「佐藤、教室戻んないの?」 「トモミ怒ってそうだしなぁ」 「じゃ、プール、見に行かない?」 この前は見学場所から中を見下ろしていた彼女を、今度は水のすぐ傍まで連れていく。 水泳部に入るつもりはないと言ったのに、目をキラキラさせながらプールサイドを歩く姿には、俺も勧誘を諦めきれなくなりそうだ。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加