476人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば昨夜、家に帰って鞄を探っていると、自宅の鍵が見当たらなかった。
どうやらプール館内に落としたみたいで、俺は昼休みになると一人更衣室へ向かう。
なかったらどうしようとヒヤヒヤしたものの、ボロボロの青いミサンガの付けられた鍵は床に転がっていた。
前の彼女から作ってもらったミサンガ。
――付けっぱなしになってたけど、これって付けてる意味ないよな。
探し物も見つかって一安心、午後は眠くなりそう。
大きなあくびを噛み殺しながら、教室へ後戻りする。
でもその途中、自販機の前に立つ佐藤を見つけてしまい
「何買ってんの」
「え?……あ、島津君」
よく声をかける俺を、彼女はどう思ってるのかは知らない。
「トモミは一緒じゃないの?」
「うん、また桜子ちゃんと口喧嘩してるみたいで」
止めに入ろうとした所、火に油を注ぐ結果になってしまったらしく、教室から追い出された、と。
「放っておいていいよ」
「でも、島津君のせいで二人は……」
彼女達を心配するような口調の中に、俺の名前を出すと、佐藤はハッとしたように苦笑する。
「別に責めてるわけじゃ……」
「俺、どうかした方がいいかな?」
「……分かんない、けど」
二人が揉めている理由が自分なのは知っている。
トモミに文句を言う桜子は見たことがないくらい必死で、そこで自分に対して向けられている好意をちゃんと感じた。
でも俺は彼女から告白をされたわけじゃないし、自ら止めに入るのもおかしな気がする。
「佐藤、教室戻んないの?」
「トモミ怒ってそうだしなぁ」
「じゃ、プール、見に行かない?」
この前は見学場所から中を見下ろしていた彼女を、今度は水のすぐ傍まで連れていく。
水泳部に入るつもりはないと言ったのに、目をキラキラさせながらプールサイドを歩く姿には、俺も勧誘を諦めきれなくなりそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!