世界の何処かで、何かがハジケタ

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「濡れちゃったね」 「俺達だけ体操服か」 「そ……だね」 濡れた体はしばらく寒そうだし、一体どうしたってコウタロウやトモミがうるさそう。 でも、何か楽しい。 「ハハッ」 こうなった以上、潔く開き直ろう。 まぁ、たまにはこういうことがあってもいいじゃん。 なんてポジティブにまとめていると、何やらくすぐったいような笑い声が間近で聞こえてきた。 ――あれ、佐藤……。 見下ろした彼女は、俺の首に手を回したまま、クスクスお日様のように微笑んでいる。 「笑ってる」 「……普通に笑うよ」 「ううん、俺、佐藤がそんな風に笑ってる所、見たことなかったよ」 たまに向けられる笑顔も、何となくぎこちなくて曖昧だったから、すごく新鮮。 「溝田がね、佐藤の笑顔素敵だったーって言ってたから、気になってた」 「意味分かんないよ」 「これからもそんな風に笑って」 早く上がって着替えた方がいいのに、時間の経過を忘れていた。 俺は濡れた佐藤を抱きかかえたまま、もう一度、念を押すように 「俺にも、もっと笑って」 溝田の言ってたことが、分かる気がする。 こんな風に笑うんだ。 そっか、そうなんだ。 ――何か、嬉しいな。 この間は溝田を助けようと怪我をして、今日は自分の為にずぶ濡れになって。 「佐藤が困ってる時、俺も力になるから」 心の中で、何かがパチンとはじける。 もしかしたら俺は、笑ってくれた佐藤ともっと近付きたいと思ってる……?
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