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-溝田圭吾
佐藤さんのことが気になっている、とは言ったものの、元々は恋をしているとコウタロウや島津に教えたかっただけの部分がある。
そう、俺はリア充達のように"恋バナ"がしたかったのだ。
なのに、一緒に帰って言葉を重ねる度に、彼女に惹かれている自分に、俺は気付いていた。
「じゃあ、また明日ね」
名残惜しく別れを告げると、佐藤さんはいつもスタスタ帰っていく。
振り返ってくれたことなんて、一度もない。
――押しが足んねぇのかなぁ。
恋愛ゲームはしていても、恋愛の経験は皆無と言っていい。
「佐藤さん、振り帰ってくんないかな」
『あの様子じゃ難しいでしょう』
「言われなくても分かってるよ」
二人だけになると喋り出す愛本の存在には、もうすっかり慣れている。
女子の友達は出来たが、こんなもんか、と最近は思うようになった。
最初のうちはチヤホヤされることに快感を得ていたが、皆が俺の容姿を見ていることに気が付いた時、佐藤さんの一言は心に大きかった。
『溝田君は溝田君なんじゃないの』
もし俺が不細工だったらどう思うって何気なく尋ねると、彼女は笑いもせずに当たり前のように言ってのけた。
考える間もなくすんなり出てきた言葉に感激したが、もしかするとフォローだったのかもしれない。
でも彼女なら、現実の俺も受け入れてくれるような気がする。
中身を見て、付き合ってくれそうな気がする。
何の根拠もないのに、そう思いたくて仕方がなかった。
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