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現実ではやっとバレンタインを終え、まぁ今年も毎年同様虚しい気持ちにさせられた。
どんな目で見られようと平気だ、とドッシリ構えて行ったつもりでも、やはりこの日はいつも以上に神経を遣う。
昼休み、何となく教室に居心地の悪さを感じた俺とキモトは、冷たい風が直に当たる渡り廊下の一角に座っていた。
物思いにふけるかの如く遠くの方を見つめるキモトは、もう少し痩せたら様になるのではないだろうか。
「圭吾は最近どうよ」
「俺は変わらず『HEART』中心の生活を送ってる」
「そんなに楽しいの?」
「好きな人がいる。だから楽しい」
ほう、と頷きながら目を細めたキモトを見る限りじゃ、否定的ではないようで。
「どんな子?」
「話しやすい子だよ、なーんかしっかりしてるようでのほほーんとしてる」
恋愛シュミレーションゲーム、『HEART』。
楽しみ方は人それぞれだが、元々は恋愛目的に作られたこのゲームは、一体誰がどんな為に開発しようと考えたのだろう。
「俺さ、たまに本気で現実に戻りたくないって思う時がある」
「それじゃ駄目だろ。どう言ってもゲームはゲームでしかないんだから」
「……キモトにしちゃ、珍しくまともなこと言ってんな」
佐藤さんや島津達にとっての現実は『HEART』の中でも、俺の現実はそこではない。
何もかもを忘れて飛び出してしまいたいと思っても、結局は住む世界が違う。
ちゃんと理解しているだけに、俺は我に返った時孤独感に苛まれた。
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